1960年製作の映画「タイム・マシン 80万年後の世界へ(The Time Machine)」で、主人公を演じる俳優ロッド・テイラーがタイム・マシンをテストする場面。この映画の原作は、1895年にイギリスの作家H・G・ウェルズが発表した「タイム・マシン」である。

ウェルズは数多くの未来の科学技術を題材に長編20作と数十編の短編を著したが、その中でも時間軸を自由に移動できる装置タイム・マシンは最も有名だ。「彼が小説で描いた発想は後に多くが実現したが、タイム・マシンは未だ夢の装置に留まっている。
可能性はゼロだと大多数の物理学者は主張するが、それは間違っている」と、カリフォルニア大学バークレー校の物理学者リチャード・ミュラー氏は語る。「実現する方法がまだ見つかっていないだけだ」
しかし・・・
最新の研究によると、実験室で生成した極小サイズの“ビッグバン”を分析した結果、タイムトラベル(時間旅行)がまったく不可能であることが示されたという。
夢を砕いたのは、アメリカ、メリーランド大学のイゴール・スモリアニノフ氏とハン・ユージュ(洪玉珠)氏。光の曲がり方が通常とは異なる先進素材を使って宇宙誕生をシミュレーションした。
実験の結果、「前進する“時間の矢”を後ろ向きに曲げ、既成事実を元に戻す」という現象は実現不可能と示された。
スモリアニノフ氏は、「タイムトラベルは現実世界で一度も成功していない。今回の新素材により、それが永遠に不可能だと判明した」と語る。
新しいビッグバン・シミュレーション装置は非常に小さく、幅はわずか20マイクロメートル(0.02ミリメートル)しかない。装置を構成する新素材は、金とプラスチックの薄片を交互に組み合わせた人工物質で、いわゆる「メタマテリアル」の一種である。メタマテリアルで光を操れば、“透明マント”の研究や、ブラックホールに閉じこめられた光の再現などさまざまな実験に利用できる。
スモリアニノフ氏とハン氏は、緑色レーザービームを使い、メタマテリアル内でビッグバンに似た現象を発生させる実験を行った。
結果として、「宇宙に存在する粒子も時間を逆行できない」という結論が導き出されたようだ。
ただし、スモリアニノフ氏は、今回の研究が完璧には程遠いと認めている。「現実世界にどの程度当てはまるのか、現時点では判断できない」。
ほかの研究者からも疑問の声が上がっている。カリフォルニア大学デービス校の宇宙学者アンドレアス・アルブレヒト氏は、「彼らのメタマテリアルは原始宇宙のモデルとして適切とは言えない」と述べる
アリゾナ州立大学の理論物理学者ローレンス・クラウス氏も同様に、「このビッグバンモデルは、現実の宇宙をあまりに単純化しすぎている」と指摘している。
宇宙には未解明の謎が数多く存在しているため、まだまだ、タイムトラベルの夢が消えたわけではなさそうだ。
今回の研究成果は、物理学研究のWebサイト「arXiv.org」で2011年4月に公開されている。